第二章 白昼夢 (5話)

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第二章 白昼夢 (5話)

 トースターに食パンを二枚入れて、冷蔵庫から卵を出す。背中に垂れる髪を縛りながらリヴィングに出て時計を見ると、もう十四時を過ぎていた。 「よく寝るな」  開かないドアに目を向け、少し笑む。無理もない。心身ともに疲労困憊という状態だろうから。  山田とまっつんが揃って脚にまとわりつく。食器棚からキャットフードを出してリヴィングの端の皿に入れてやる。二匹は慌ただしく皿に顔を突っ込み、音を立てて食べ始めた。  ひとりの時間とは違う。利が起きてくるまでやることも見当たらず、仕方なくソファでリモコンを手にしてテレビをつけた。サスペンスの再放送の時間だ。さして面白くなくてもつい最後まで見てしまうから、チャンネルを変える。  ワイドショーで暇そうなタレントが噂話に興じている。それだけで金を稼げる不条理に呆れながら眺めていると、ドアの開く音がして振り返った。  トレーナーを着崩した利が、ドアノブに手を乗せて立っている。 「おはよ。お目覚め」  寝惚けているのか。利は返事もせず、目を擦りながらずれたトレーナーの肩を引っ張り歩いてくる。細い鎖骨に散らばる痣が、目に痛い。  猫たちが走って廊下に逃げてゆく。よろよろする利をソファに座らせ、キッチンへ戻る。 「朝飯食えるか。パン焼きますけど」  何も返ってこない。とりあえずトースターのボタンを押して、加熱したフライパンにベーコンを敷き、卵を割った。  二枚の皿をテーブルに置き、コーヒーも置いて向かいに座る。利はぼうっとしたままボサボサになった金髪を右手でかきあげて、そのまま止まった。 「ほら、もう昼過ぎだぞ! 起きろ!」  手を鳴らして笑う。利は我に返ったように眉を上げて、それから弱く微笑んだ。ずいぶん穏やかだ。落ち着いたのか、それともまだ、正気ではないのか。
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