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夜明け、辺りが明るくなってくると、
ひとりの看護師が霊安室の前まで
やって来た。
扉のドアノブに手を掛けると、
開いている。
「鍵を掛けた筈なんだけど」
不審に思い、扉を開け中に入って
蛍光灯をスイッチON。
「キャーッ!!!」
思わず、看護師が両手で顔を覆った。
無惨にも床一面に、晃の四肢がバラバラと
なって散乱していたのだ。
首、腕、脚、全てが無造作に
切り離されている。
錯乱した看護師が、慌てて霊安室から
飛び出していった。
しかし、そこにルミカはいない。
4階、404号室。
ベッドの上に横たわる晃の母親は既に、
意識が混濁しており、誰の目にも
死期が迫っている事実を暗示させていた。
瞳は半開きとなり、その虚ろな視線は
何を見ているのだろうか。
酸素マスクについた吐息の曇りが、
生への微かな望みを繋いでくれる証拠にも
みえた。
そのベッド脇に、ルミカが座っている。
椅子に腰掛け、ジッと患者の様子を
見つめている。
ひたすら、患者の死を待つルミカ・・・
「私は黒い影、だからHATEDPERSON
・・・嫌われ者。
晃の真っ赤な鮮血が、チョコレート色に。
溶けたチョコレートに自分の生き血を
混ぜて彼氏に食べさせると、恋が成就
できると聞いた事があるわ・・・」
彼女が、ほくそ笑む。
時折看護師が、空になった点滴袋を
交換しにやって来る。
そして、交換し終わると何事も無かった様
に詰所へ戻って行った。
しかし、全く彼女には気づいていない。
何故なら、病院内で山本ルミカを観た人は
誰もいなかったからだ。
(終)
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