第1章 Hatedperson

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2月14日、雪が散らつく寒空の中、 男が自転車に乗りながら病院に向かって 走っている。 母親が、入院していたからである。 国道を真っ直ぐ走ると、大きな建物が 迫って来た。 病院はかなりの大きさで、駐車場も広い 市営病院だ。 まだ出来たばかりの新築病院、 マウンテンバイクを病院の駐輪場に置く。 駐輪場には他の自転車が全く無い、 それもそのはず、午後9時を過ぎていて 既に外来患者は誰もいない。 男は堺本晃(さかいもとあきら)と言って 35歳の独身ニート。 無職の為、生活保護を受けている。 若い堺本にはまだ生活保護は無理だが、 親の入院を機にあっさりと受給が 決まった。 親は末期の胃癌だった為に、高額な治療費 がとても払える状態では無い。 その時、親戚が動いてくれた。 「アキラ、市議会議員の先生の所に 行くぞ。お前ひとりじゃ無理だ、 先生は先進党だから、親身になって 相談を受けてくれるんだ」 今まで何度も、晃が役所を尋ねても難色を 示すばかりで埒が明かない。 叔父さんと2人で政治家先生の自宅を 訪問し詳しい事情を伝えると、 親身になって優しく聞いてくれた。 「お母さんのためにも、明日役所で 手続きをなさい。 簡単に済むから」 翌日役所に行くと、先生が言った通り 今までとは職員の態度がうって変わって、 既に書類が出来ており、あとは サインとハンコを捺印するだけだった。 「これから市議会議員選挙の時は、 投票所に行って先生に投票してくれ。 それと、公営ギャンブルとパチンコは 絶対行かないこと」 叔父さんから、念を押される様に 約束されてしまったのだ。
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