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驚くほど俊敏に巴さんが立ち上がり、
受話器を掴む。
「はい、ああ、小野寺センセ!
どうなさったんですか?
ええっ、はい、はい…」
しばらく話していたかと思うと、
いきなり保留にし、
振り返って私の方を見る。
「あの、マミ先生」
「はい」
「隣りの個室に小野寺薫先生がいらして、
マミ先生に挨拶をしたいそうなんですが」
「はい、いいですよ」
簡単にそう答えたのは、
てっきり女性だと思い込んでいたからで。
実は私という人間は、
大学までエスカレーター式の女子校に
通っていたせいか、
初対面の男性がすごく苦手なのだ。
この職業は、
顔写真が公開されることが殆ど無く、
数行の短い紹介文でしか、
相手を知ることが出来ない。
小野寺薫先生はまだ20代後半で、
元々、文芸作家だったところを
デビュー作以降、鳴かず飛ばずとなり
仕方なく官能小説に転向したと聞く。
過激な性描写が評判らしく、
私は勝手に奔放でグラマラスな女性だと
…そう決めつけていた。
ところが。
ノックの後、現れたその人は長身男性で。
無造作に伸びた髪さえカッコイイという、
生粋のモテオーラを醸し出しており。
自己紹介もせずに、
無言のまま私を凝視している。
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