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――私は雪。ずっとその木にいたんだよ。
私は慌ててベンチの上に枝を広げる木を見上げる。だけど彼女の姿はどこにもない。
「もしかして紅茶のせいで消えてしまったの?」
もし彼女の話が本当で、彼女が本当に雪なんだとしたら、私はそんな彼女に熱いミルクティを渡してしまった。知らなかったとは言えひどいことをしてしまった。
焦る私にクスクスとかわいい笑い声が降ってくる。
――いいの。だってもうすぐ春だから。いつかどこかでまた会えたら、あなたの名前教えてね。
それだけを言うと二度と声は聞こえなくなった。
ゆっくりと朝日が昇り、街を溶かしていく。
もう一度彼女がいたという木を見ると、まだ小さいけれど、力強い新芽が顔を出していた。
私は春の予感がする空に「またね」と呟く。
すると、晴れた空から細かい粉雪が舞い、それが朝日に照らされ宝石のように輝いた。
それが彼女からのお礼だったのかもしれない。
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