冬の紅茶。

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ピンと張られた糸のように透き通った朝、街はみんな氷の中で静かに眠っているようだった。 人も、車も、信号も、街路樹も、ポストもみんな。 肌を刺すような空気に、吐く息までもが凍ってしまいそうだ。 だけど胸いっぱいにその空気を吸い込んで、体をそこへ馴染ませる。 薄暗くて誰もいない朝の公園は、深海の底。 ところどころに残る雪は、今はまだ黒い影で、ごつごつした岩のよう。 私はその間を縫って、深海魚のようにゆっくりといつもの場所へ向かっていく。 聞こえる音はザッ、ザッと砂を踏む足音だけだが、それだけでこの氷の世界を壊してしまいそうで、私は出来る限りゆっくりと静かに進むことにしている。 目指していた冷え切ったベンチに座って、いつものようにブランケットと水筒を取り出したところで、新しい一日の準備を始めた空が少しずつモノクロの世界に色を届けはじめた。
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