第1章

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爆発は起こらず、周りにいた鳩が飛び立っただけだった。 「あれ?なんで爆発しないんだ」 男は尚もスイッチを押した。 「まじで押しやがった……」 貴文は足の力が抜け膝から崩れ落ちた。 千佳と過ごした今までの思い出が次々と浮かんだ。千佳と行った場所。話した会話。笑った顔。声。そして彼女の耳元で爆発する映像が脳裏をよぎった。 「なんかしらけたな。まぁいいや、帰ろ」 男はストラップを放り投げた後、踵を返して公園の出口の方へ歩いて行った。 「あ………」 貴文はショックで立ち上がれず、男が去っていくのを呆然と見ていた。 なぜ、こんなことになったのか。 ストラップを交換しなければ…… ストラップを公園に置き去りにしなければ…… 貴文は唸りに似た叫び声をあげたが、公園内に虚しく響き渡るだけだった。
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