石畳の街

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「アイスミルクティー、もう1つお願いします」 「かしこまりました」  ウェイトレスが去ると、ワタシはテーブルに両肘をついた。窓の外は桜の雨が降る。  向かいのタカシに微笑みを送る。  タカシは憮然としている。 「コーヒーの方がよかったな」 「まだ怒ってるの?別れたのはお互いのためだったでしょ?」 「別に怒ってねぇよ」  大学時代につきあっていたタカシだったが、態度がどんどん悪くなってった。就職に失敗したことも原因にあったのだが、ワタシは耐えられなくなった。 「仕事は順調なのか?」 「うん」  神戸にある小さな製菓会社だ。  開発部に配属した。世界各国のチョコを調べることが最初の1年間の仕事だ。  チョコの原料はカカオマス、ココアバター、砂糖、乳製品だ。 「そっか?こっちは未だ就活中だよ、東京にでも行こうかな?」 「それもいいんじゃない?」 「そっけないな?」 「もう恋人じゃないし」  今日は日曜日、帰って掃除をして、サザエさん見て風呂に入って眠る。  タカシとつきあってた頃はドライブしたり、エッチしたり忙しかった。  最近はずっと同じサイクルだ。  映画も最近見てないな。  月曜日  黄昏に染まる仕事部屋。  市松製菓は2階建ての事務所と工場に分かれている。開発部は事務所の2階にある。  ワタシはデスクで報告書を書いていた。  マスオさんに似た主任の増尾が近づいてくる。 「書いているんですな?なかなかキレイな字ですね?字って言ってもイボ痔ではありません」 「知ってます」 「物知りですね?日本ではじめてチョコを食べたのは誰だかご存じですか?」  1 徳川家康  2 支倉常長  3 織田信長 「正解は次のページです」  報告書を書き終え、階段を降りると原田くんと行き合った。彼とは同期だ。ちびまる子ちゃんの永沢くんがメガネをかけた感じだ。 「これから帰り?一緒に帰ろう」  原田くんが微笑んだ。 「いいよ」  タカシのことを早く忘れたい!  タイムカードを切って会社を出る。  磯上公園で休憩する。球技場にバットのカキーンって音が響く。  「この神戸にも有名なチョコがあるよね?」  原田くんが言った。 「モンロワールの《石畳の街》が1番好きだな」  ロイヤルミルクティー、ヘーゼルナッツ、グランマニエの3種類からなる。  原田くん、ワタシを溶かして?
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