アイツの香り

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アイツの香り

 5月4日………瞳と宇都宮駅で別れ、新幹線つばさに乗り込んだ。何だかんだやっていたら夜になってしまった。  缶ビールを飲みながらクロスワードをやった。  夜景がやけにキレイだった。  仙台についたのは8時近かった。  親切な兄ちゃんにアパホテルを案内してくれた。  最上階の20階に寂しく1人で泊まる。  さっきの兄ちゃんを誘っちゃおうかな?  なんかさ?無性にしたい気分なんだよね?  仙台市街を一望する。  仙台か………高校時代の友達があの大震災で亡くなってしまった。  大浴場に入った。露天風呂がいい感じだった。  することもなく、やたら早く眠った。  涙が頬を伝った。タカシ…………。  偶然にもタカシも仙台に来ていた。  新しい恋人、大下優子の故郷である松島に行くためだ。  昨日の夜、キスをしたばっかりだ。  夜更けの仙台市街を手を繋いで歩いた。  優子が言った。 「あの震災のときにボランティアをしたんだ、野蒜地区は特にひどかったな」  言葉が見つからなかった。 「大変だったね?」  ロフト風のファミリーマートがお洒落だった。  山の上に聳える2本のタワーがキレイだった。  金色と虹色に煌めいている。  フワリとシトラスの香りがした。  タカシは思った。  涼子がよくしていた香水と同じ香りだ。  大学2年のときに横浜に旅行したのを思い出した。あのときはじめて関東に足を踏み入れた。  山下公園で港を眺めた。汽笛が鳴り響き、大道芸のパフォーマンスをやっていた。氷川丸や中華街にも行ったな。もう2度と戻ることはないんだな?  優子が心配そうに見ていた。 「ゴメン、ボーッとしてた、宿に戻ろっか?」  5時ぐらいに目を覚ましてしまった。  ワタシはこのままどうなっていくんだろう?  朝食はバイキングだった。ベーコンと大根の煮物がやたら美味しかった。  ポカポカ陽気のなか松島海岸を歩いた。貝を積んだ漁船が停泊している。  五大堂を見ているとスマホが鳴った。  知らない番号だった。詐欺かも知れないと不安だったが出た。 「モシモシ?」 《北川涼子さんですね?》  女の声だ。 「どちら様ですか?」 《原田文也には気をつけなさい》
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