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 何だかんだかやっているウチに7月になってしまった。工場にある売店でチョコボールを大量に買った。雨の日に食べると透明になるってゆー新製品だ。従業員は実験台です。  今日も汗だくになり、足がスッゲー臭くなるほど働いた。段ボールを延々とトラックの荷台に積む仕事だった。炎天下だったので熱中症になるかと思った。しかも、残業でアパートに帰ってきたのは7時近かった。  今月から1人暮らしをはじめたんだ(^.^)  両親に透明になるところを見られたくないからね?そしたら警察に通報されちゃう。  勿論、旧居留地だ。目と鼻の先に雪美は住んでいる。石造りの西洋建築が連なる。  明治時代にタイムスリップしたような感覚に浸る。セピア色の商船三井ビルを眺めていた。  葡萄色の夜空の下に、神戸の海が金色に輝いて見えた。街の灯りが水彩画みたく水面に映っている。  市松製菓だけに一抹の不安を感じる。  晴天の日が続き、なかなかチャンスは来なかった。   頭が痛くなる。いつになったら雨が降るのか!  洪水にでもなって、市松製菓ごと流されたら面白いし?手間がはぶけるな。  てるてる坊主を、逆さに吊るした。  ザーッ…………コントみたく雨が降ってきた。 「スゲー!アタシって卑弥呼みたいだわ?オホホ!」  そんな暇ねーんだよ!!  冷蔵庫からチョコボールを取り出し、口に放り込んだ。バターがほんのり効いていてうまし!  洗面台の前で食べる。鏡に映さないと、透明になるのかならないのか不安だ。  ナイフとロープの入ったリュックを背負った。  頭からスルスルと透明になっていく。  存在がなくなるのって悲しいな(T_T)  だけど涙が他人に見えないのはいいな。  人に涙を見られるのは死ぬほどイヤだから。  完全に透明になった。  視界はバッチリだ!オモシレー!  足の感覚や嗅覚も正常だ。  アパートを出ると、禿げ頭の高橋さんが螺旋階段を上ってくる。愛想がいい隣人さんだけど、ワタシには気づいてないみたいだ。  足で蹴飛ばして階段から突き落としてやった。  ゴロンゴロンと転がっていく。  高橋さんが死んだ!  イイ実験台になってくれた。  傘を広げ、土砂降りの明石町筋を駅に向かって走る。偶然にも雪美が向こうから歩いてきた。  チャーンス!  リュックからナイフを抜き、憎しみを込めてグサグサ突き刺した。  超キモチー!
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