星降古書店ブックカースとチョコの本

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「あたしは上村 祐子(かみむら ゆうこ)です。祖父は残念ながら昨年に他界しました」 果樹園の端にある墓石に視線を移した。 「嗚呼……是清さん……生きて逢えなくてごめんなさい」 在りし日に追いすがるように、千代が墓石の前で泣き崩れる。 墓石の横に寄り添うように、小さな樹片に文字があった。 八と1を組み合わせた相合傘の下に、“ちよ”と“これきよ”の文字が刻まれている。 「祖父は山本さんと逢える日を夢見て、この果樹園を育てていました」 「この果樹園は……?」 「アロニアの樹です。またの名をチョコレートの樹」 祐子がそっと告げた。 「アロニアの樹は1976年にソビエトから導入されて、日本でも栽培され始めたそうです」 千尋は果樹園を眺めながら言い添えた。 「それよりも前に是清さんは導入して栽培していたんですね。きっと病弱な千代さんのためだったのでしょう。 アロニアは寒さに強く、神のベリーといわれる果実です。収穫期に実がチョコレート色になるので、チョコレートの樹と呼ばれていますね」 千代がアロニアの実を口にする。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加