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「あたしは上村 祐子(かみむら ゆうこ)です。祖父は残念ながら昨年に他界しました」
果樹園の端にある墓石に視線を移した。
「嗚呼……是清さん……生きて逢えなくてごめんなさい」
在りし日に追いすがるように、千代が墓石の前で泣き崩れる。
墓石の横に寄り添うように、小さな樹片に文字があった。
八と1を組み合わせた相合傘の下に、“ちよ”と“これきよ”の文字が刻まれている。
「祖父は山本さんと逢える日を夢見て、この果樹園を育てていました」
「この果樹園は……?」
「アロニアの樹です。またの名をチョコレートの樹」
祐子がそっと告げた。
「アロニアの樹は1976年にソビエトから導入されて、日本でも栽培され始めたそうです」
千尋は果樹園を眺めながら言い添えた。
「それよりも前に是清さんは導入して栽培していたんですね。きっと病弱な千代さんのためだったのでしょう。
アロニアは寒さに強く、神のベリーといわれる果実です。収穫期に実がチョコレート色になるので、チョコレートの樹と呼ばれていますね」
千代がアロニアの実を口にする。
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