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星降町は物語にあふれている。
それはこの街に本屋が多いからだ。
なかでも特に、古書店が多いのは特筆に値する。
これはそんな古書店を舞台にした物語──。
ある古書店の前に、歳若い娘が立っていた。
長い黒髪の似合う、くっきりと整った顔立ちの娘である。
赤いコートをなびかせて、凜とした風情で立っていた。
その娘を見ると、街ゆく者が振り返る。
美貌に目が眩んだのではない。
娘が小脇に抱えるモノが異様だからだ。
その美貌の娘は、鎖(くさり)で繋がれた本をもっていた。
古色蒼然とした本である。
悪魔との契約にでてきそうな古びた革の古書。
装丁が何の革だろうか。妙に生々しく色艶がある。
「アナテマは黙っていてよね」
娘が誰ともなく命令した。
「今回は私だけで解決するんだから」
『それは一興だな。せいぜい頑張れ』
「マジむかつきます」
パンッと脇を締めて古書を叩く。
「早く片づけて太極拳の練習に行きたいな」
独り芝居が終わると、娘は古書店の扉を開けた。
「あの…ごめんください」
「何ですか、何か御用ですか?」
店の奥に座る青年の尖った硝子のような声が、千尋の耳を打った。
かすかに胸を震わせると、緊張の色が顔を駆けめぐる。
「すみません、古書店ブックカースです」
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