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「…すみません、古書店ブックカースです」
意を決して挨拶すると青年が固まった。
「はじめまして、並河 千尋(なびか ちひろ)です」
「い、いらっしゃいませ、じゃなくて山本 裕一(やまもと ゆういち)です!」
青年がこれでもかという位に赤面した。
不慣れな店員業ゆえではなく、どうやら千尋の美貌によるところが大きい。
そんなこととは露知らず、千尋は花咲くように微笑む。
「ブックカースの依頼を受けて参上しました」
「こんな若い女の人だとは思っていませんでした」
裕一が想像していたのは、店によく来る枯れた壮年老人だ。
灰色の店内が艶やかな果樹園に変わったように、千尋の放つオーラは豊潤だった。
「依頼内容を詳しく聞いていませんが、どのようなことで悩まれているのでしょうか?」
「依頼した父は不在ですが……実は今年86歳になる祖母の様子がおかしいのです」
裕一が言い澱む。口外したくないことなのだろうか。
「大丈夫です。個人情報は厳守しますので」
祖母が困っていると聞いて俄然やる気になったのか、千尋は瞳を大きくして言葉を足した。
「あの、その前に……ブックカースって何ですか?」
切羽詰まって切りだすので、千尋は鎖で繋がれた本を掲げた。
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