星降古書店ブックカースとチョコの本

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「チョコレートの本……お菓子のレシピ本かしら」 知ったかぶりの眼を瞑ると、ホトホト困った表情になる。凜々しい眉を八の字にして、迷子の仔猫の表情に変わった。 『先刻に自分だけで解決すると聞いたが』 どこからともなく枯れた声がした。 「そんなこと言わないでアナテマ。お祖母ちゃんを助けると思って」 『儂にしてみれば86歳なぞ小娘も同然。しかしながら、いくばくかの興が湧いたぞ』 「協力してくれるのアナテマ?」千尋の眉が上がる。 『そのブックカースの謎、美事に解いて進ぜよう』 鎖に繋がれた本の表に、しわがれた人の面相が浮かんだ。 修道僧のような眼でギロリと店内を物色する。 どうやらアナテマとは、この鎖で繋がれた本の名らしい。 されど、薄暗い古書の墓場で喋る本をもつ千尋は、余人が覗き見たら卒倒する光景だろう。 「そもそもチョコレートっていつから日本にあるの?」 チョコレートのように甘い匂いの古書を掻きわけながら訊ねた。 『日本人がチョコレートを見たのは幕末じゃが、それを店にだしたのは明治の頃よ。さらに大正7年に製品化されたという歴史があるぞ』 「まさに文明開化のお菓子よね。それ関連の古書かしら?」
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