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『急くな千尋。どぉれ、ブックカースを探るぞよ』
アナテマの鎖がジャラジャラと動くと、古書が並ぶ一角を差して止まった。
「これは『ロシヤ年代記』だけど……ちょっと待って」
千尋は大きな眼を瞬かせる。その色あせた本の頁に、もう1冊B6判の本が挟まっていたからだ。
「この本は『樹木百話』上村 勝爾(うえむら かつじ)著ね」
『1918年、大正7年の本じゃな』
「チョコが製品化されたのと同じ年の本か。どれどれ──」
本に一礼すると、おもむろに頁をめくった。
「ビンゴかも。“珈琲トちよこれーと”という記事があるわ!」
最初に“茶ト珈琲トちよこれーとトハ飲料ノ三幅對(サンプクツイ)ナリ”とある。
「チョコレートの飲み物なんて、昔にしてはオシャレじゃない」
『そもチョコレートとは、中世で飲む高級品だったのだぞ。その原料となるカカオは、メソアメリカ文明では通貨だった』
「でも珈琲とチョコの紹介で、この記事のどこにブックカースが隠れているのかしら?」
『それを見つけるのは千尋の役目ぞ。心を平らかにして、言霊の訴えを聴け』
アナテマの声に従い、千尋は目を瞑り密やかに息を吐いた。
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