星降古書店ブックカースとチョコの本

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『探すのはカカオの樹ではないぞ』 アナテマが謎掛けのように答えた。 「……自分は古本屋が嫌いなんですよ」 古書の波を掻きわけながら、裕一が肩を落とすような声で言った。 「今時のヤツは本を読まないし、読んでもブ○クオフで漫画を立ち読みするくらいですよ。 こんな流行らない古書店を継げと言われても、将来が不安で仕方ないです」 「人は何かを伝えたくて、伝えたくて本を書きます。だからそれを繋ぐ古書店は、とても立派な仕事だと思いますよ」 「何かを伝えたくてですか……」 裕一の表情に光が差した。 アナテマは考える。 なぜ大の大人が小娘の千尋に信を置くのか、本である彼にはとんと理解できぬ。 考えあぐねた涯てに、 『人間は不可解なり』 いつもの台詞を口ずさんでしまうのだ。 「あっ、これではないですか探していた本は!?」 裕一が慌てた様子で1冊の本を拡げる。 それは岩手の郷土史家が自作出版した古書だった。 「“岩手に人知れず伝えられるチョコレートの樹がある”とありますね。きっとこれですよ!」 千尋は店を赤く染めるような声で叫んだ。 裕一が運転する車に乗り、千尋は一路岩手を目指した。 後部座席には千代が座っている。 「是清さんは……私の許婚だったんですよ」 千代が言葉少なに語り始める。
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