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「病弱だった私を気にかけて、大きくなったら結婚しようと約束していました。でもね、あの戦争が2人を引き裂いたの……私にあの本を残して。
今でもあの人は……生きているのかしら」
まだ雪の残る車外の風景を眺めながら、千代が白く淡い声でつぶやいた。
やがて車は目的地で停まった。
雪余の小径を登り、3人は開けた丘に辿り着く。
梢に白いつぼみをつけた低木が一面に生えていた。
そこには小さな果樹園があった。
その端に墓石がひっそりと建ち、そこに1人の歳若い娘が佇んでいる。
長い髪を後ろで結んだ娘が千尋たちに近づいてきた。
「あのう……何か御用ですか?」
遠慮がちに訊くので、会釈をしながら千尋は答える。
「すみません突然に。ここにチョコレートの樹を探しに来ました」
「それならここですよ」娘が静かに言った。
「ここが……!? 申し遅れました。自分は山本裕一で、祖母の千代も一緒に来ました」
裕一に手を引かれて、千代が前に進みでる。
「千代さんですか!? もしかしたら祖父の是清を知っていますか?」
「是清さんは私の許婚でした。戦争で生き別れになりましたが、あの人は、是清さんは元気ですか?」
千代が声を荒げると、娘がそっと視線を落とす。
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