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外に出ると、終電がなくなったからだろうか。しんとしていた。もう少し賑わってるのかと思ったが意外だった。
真夜中の空気は冷たくて同じ東京のはずなのに。
綺麗だった。
淀んだ空気しか知らない僕は少し嬉しくなり、始発までこの街を探索しようかと思ってしまった。
だからだろう。足が進んだのは駅とは反対方向で。
死んだように眠っている繁華街。時折、野良猫が数匹、闊歩していた。
丸々と太った猫を見た時は少しだけ親近感を覚えてしまう。
あぁ、あと、余計な明かりがないせいか月と星がすごく綺麗に見えたのも意外な事実だった。
ふらふらと歩いていると、いつの間にか繁華街から出てしまい、生活感漂う住宅街へと進んでいた。
もちろん、もうしんとしていて人っ子一人いない。
なんだか、人間が滅びたように感じてそこでようやく少しだけ恐怖心が沸いた。
妄想力だけは人一倍あるのでゾンビか地球外生命体にみんな食われたのではなどという非現実的な妄想をしてしまう。
それでも、歩を止めないのは見知らぬ町への好奇心だろう。
物騒な妄想をしながら歩いていると少し開けた場所に出てそこが小さな公園だと気づくのに数秒かかった。
遊具と砂場、水飲み場にベンチ。
僕はベンチのほうで休もうと思い近くまで行ってみる。が、ブランコの方からキーキーと漕ぐような音と歌声が聞こえてきて思わずそちらに目を向けた。
高校生くらいの子か。パジャマ姿で幼子のようにブランコに乗りながら何かを歌っている。
上手いとは言えないが下手とも言えない。特徴のないもの。
「――♪」
いつもなら無視を決め込むのに何故か、そちらへ歩いてしまう。
どこかしら自分に似たような雰囲気だったから?
突然、近づくと怯えてしまうかもしれないなどと考えられなかった。
これなら、完璧不審者だ。
それでも、近づくのをやめなかったのは月明かりに照らされた寂しそうな顔。
「……こんばんは」
穏やかな声を出そうと決め、幼子に話しかけるように声をかけた。
ぴくり、肩が震えて歌が止む。
返答を待つが一切音も声もしない。
「あ、えっと、その」
まさか、返事がないとは思っていなくて焦る。何か言わなきゃ、そう思い次の言葉を発そうと口を開いたのだが、
「……ゴメンナサイ!!!」
まるで、悲鳴のように告げられる謝罪の言葉。そして、足元をもたつかせながら彼女は立ち上がる。
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