本編

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「ほら、こっちだ」 先輩が僕の腕を引っ張った。 「え?まさか。ここで試験を審査するんですか」 「あぁ、そうだ」 戸惑う僕の質問に、先輩は当たり前のようにそう返す。 そして、ずかずかと入っていってしまった。 ……沼の中に。 「え、え、」 一人、困惑する僕。 先輩は痺れを切らしたのか、もう一度沼から上がると、僕の腕を取ってもう一度沼へと入っていく。 「ほら、もう試験が始まっちまうぞ」 なんて言って。 気持ちが悪い。 と思うことを覚悟していたが、それよりも何だか沼が重い。 「先輩、これ、沼ですか?水の感じが全くしないんですが……」 不思議に思い、尋ねると、先輩はさも当たり前かのようにこう言った。 「そりゃそうだろうが。ここはチョコレートの沼なんだから」 びっくりして、目を見開いたまま固まる僕。 そんな僕を先輩はふっと鼻で笑い、さらに追い打ちをかけてきた。 「はっ。何だ?まさか、俺が普通の沼に入るとでも思ってたのか?」 何が何だが。もうよくわからない。 「先輩、このチョコレートって食べられるんですか」 だから、取り敢えず質問をしてみることにした。 軽い逃避とでも言おうか。自覚はある。 「まぁ食べられるっちゃあ、食べられるが……」 「そうですか」 まぁ、特別甘党だという訳でもないし、特に食べたいとも思わない。 質問をしときながら、何とも無責任な僕。 そりゃ、さっきから会話も弾まない訳だ。 そうこうしている内に、遠くの方で笛が鳴る。 ピーーーーーーーー。 高い機械音が辺りに鳴り響く。 その瞬間、遠くの方で受験者たちがスタートし始めたのが見えた。 さぁ、始まるぞ。 僕は自分に気合を入れた。 ……それにしても、チョコレートの沼は重たいのだな。
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