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「はやく、次はマドカの番だ!」
ドロフェイがそう言って、フェッテ・ア・ラ・スゴンドを途中でやめて、私の前まで軽やかに走り寄って、手を差し出した。
ふわりと微笑むドロフェイに泣きそうになった。
馬鹿ドロフェイ。
私、失礼なことを言ったのに、どうして怒らずに私に優しくするの。
自分が一層ちっぽけで未熟に見えて、そして、ドロフェイの優しさに鼻の奥がツンとして喉がキュッと締まった。
「どうぞお手を、マイプリンセス」
ドロフェイ、デジレ王子の手のひらにそっと手を重ねて微笑み返す。
エスコートされるままに舞台中央へでてて、パドブーレから脚を踏み切る前のポジションをとった。
コーダの一番の見せ場、片脚を軸に立ち、もう片方の脚の開いた状態から引き寄せることを繰り返し、その遠心力を利用して回り続けるグラン・フェッテ。
バレエには、言葉がない。
だから一つ一つの動きは、その人の言葉を表す。
パは感情を表す。
私は、ドロフェイのようにバレエを通して気持ちを伝えられるのだろうか。
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