見えない愛が憎い

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死ぬしかないと思った。 選択肢は他にはなく、そうすることが最善の選択であるように思われた。 死を悪と見なす風潮がこの世の中には蔓延っているようだけど、自分にはそれが理解できない。 苦しみ過ぎて感情をどこかへやってしまった。 「助けて」ということを億劫に感じるようになった。というよりも、助けを乞う気力すら死にたい気持ちに吸い取られてしまったようだ。 「レンちゃん、レンちゃん」 そうか。自分は「レンちゃん」なのか。 社会的価値がない不用品ではなく、制欲処理の道具でもなく、名前を持った一人の存在だったのか。 まだ、そんな価値を与えてるくれる人がいたなんて。 「レンちゃん、好きだよ」 視界がぼやけて、小さな黒い点が不明瞭な視界の中でふわふわと揺れ動いている。 見えない。見たくない。もう見たくない。 生きたくない。汚れたくない。空っぽの人形になりたい。 いっそのこと人間をやめて、目を瞑っているだけでいい観賞用の人形になりたい。感情を溝に捨てて、心なんてなくなればいい。 「ねえ、起きてよ。レンちゃん」 頭が痛い。目が痛い。腕が痛い。足が痛い。 全部全部全部全部壊れてしまって、まともに使えることが不可能になった自分の身体。 身体だけじゃなくて感情も完全に壊れればいいのに。ううん、身体も感情もぐちゃぐちゃに壊れればいいよ。 「パパはどこかに行ったよ。だから大丈夫。起きて、レンちゃん。もしパパが帰ってきても、僕がレンちゃんを守ってあげる」 ありがとう、という気力もなかった。 早くここから抜け出して幸せになりたい。 苦しまなくてよくて、泣かなくていい場所に連れて行って欲しい。 地位も名誉もいらない。親もいらない。友達もいらない。
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