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例えばの話だけれど。
本当に想像もつかないような夢物語のような話だけど。
当たり前だった日常が、特別視してこなかった生活が、「一か月後には終わるんだよ」って言われたとしたら、君はどうする?
目の前に映し出される世界が、頭の中で繰り出される思考が、「動け」と念じれば思い通りになる体が、自分自身の所有物ではなくなるとしたら、どうする?
「どうもしないよ」
一か月前の僕だったら間違いなくそう言ったと思う。
世の中にはどう頑張ったってどうにもならないことが沢山あって、そういう僕達が触れることを許されない漠然とした力は、僕等が泣き叫ぼうと喚こうと容赦せず襲いかかってくる。個人の感情なんておざなりにされて、強い力だけが生き残っていく。
つまり、泣き喚くだけ無駄なのだ。
……さて、と。
夢物語の中に足を踏み入れてしまった僕は、自身の体の所有権を手放してしまった。
絶望感に苛まれて流した涙を拭うことすらできなくなった。その悔しさに、濡れた頬が更にびしょびしょになった。
「助けて」の言葉も口から紡ぐことが不可能になって、唯一動かせる中指を死に物狂いで動かした。あんなに大嫌いだった母さんも、目を合わせたくもなかった父さんも、口喧嘩ばかりしていた妹も、声を震わせて泣いていた。
ごめんなさい。生まれてきて、ごめん…。僕がいることで、不幸にさせてしまってごめんなさい。
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