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その時僕の頭の中に浮かんだのは「生きてるってなんなんだろう?」というあまりにも答えから遠すぎる問いだった。
どうせ死ぬなら、生まれてくる意味なんてないじゃんか。こんなに苦しい思いをするなら、最初から生まれてきたくなんかなかったよ。生きることもできない。死ぬこともできない。どうせ僕はすぐに死ぬだろう。
…だけど、死ぬのは怖い。
もし意識の糸が途切れた後に、二度とあの美しい空を見れなかったらどうしよう。「二度と」の概念なんてない真っ暗闇の無に取り込まれてしまったら、どうしよう。
僕は空のはじまりに手を伸ばそうとありったけの力をふり絞った。
その瞬間鉛のように重かった指先が羽のように軽くなって、朦朧としていた意識も色とりどりの光彩を映し出しながらはっきりとしたものになった。
病室のガラス越しの景色が、不思議とこの世に一つしかない理想郷のように思えた。
『貴方は、どうしたい?』
耳元で天使が優しく囁く。
どうしたいか、だって?何でそんなことを聞くんだろう。言わなくたって、分かるに決まってるだろうに。
「…僕は、幸せになりたい」
天使が僕の顔を両手で包み込みながら『どんな、幸せ?』と小さく尋ねる。
「…そうだな…。二度と失うことのない、そんな幸せかな」
目を閉じて、静かに深呼吸をする。乾いた涙の跡が妙にむず痒くて、僕は何とも言えない気持ちになった。幸福に包まれた泣かなくてもいい世界に行きたいと思った。
『貴方を空のはじまりに連れて行ってあげる。永遠の幸福を、貴方にあげる』
天使はさっきより凛とした声で言葉を発すると、僕を優しく抱きしめた。
僕は「これも夢物語の延長線なんだろうか」と考えていた。
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