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(四)
――都内、間宮画廊。
ある日、間宮画廊に一枚の絵画が届いた。またしても《K》のイニシャルが入った油絵だった。
「今回の作品もまた作風が違いますね。これはピカソの「泣く女」のようなタッチですね」
どうやらまた圭一朗は誰かの痛みを受けたようだ。複雑な表情が絡み合った女が描かれる絵には、圭一朗の受けた痛みの深さを物語っているようだった。
「この花嫁は何だか複雑な表情をしていますね。笑っているのか、それとも泣いているのか……うぅん、それよりも怒っているようにも見えますねぇ」
「もちろん、君も知っていると思うが、ピカソの愛人ドラ・マールが「泣く女」のモデルと言われているね。彼女は感情的でいつも泣いていたらしい。まぁ、主にピカソの女性関係で悩まされていたそうだから、気の毒な話だと思うがね。だから、このモデルの女性も、きっとそんな問題でも抱えていたのだろう」
アシスタントの三島香織の気をそらすため、天羽秋文はあえてピカソの話題を持ち出した。
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