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一旦、言葉を切ってから、さゆりは強い口調でまた語り始めた。
「そういう運命ならば、誰よりも優れた能力を開花させて欲しいわ」
「そうだね。掟に反する行為も可能にする、壮大な能力の持ち主になると良いね」
二人の話している内容はとりとめがなく、聞いている僕には一向に意味がわからなかった。しかし、この話の主人公が僕であることは理解できた。
「それで、悟はどんな絵を描いたんだ? 」
急に自分に話題がふられて、ようやく僕は描いたばかりの絵を得意げに二人の目の前で披露した。
「これ! パパとママと圭ちゃんと、それにこっちは小っちゃいけど、圭ちゃんのパパとママ! みんなが虹のエレベーターに乗って、お空の向こう側にピクニックに行っちゃうの」
「あれ? ここに悟はいないね?」
「……うん。僕はね、お留守番。一緒に行きたかったけど、行けなかったの。圭ちゃんが来ちゃだめだって言ったから」
「そっかぁ……悟はお留守番か」
「僕はここでみんなにバイバイするんだよ。ちゃんとみんなが虹に乗ったか確認するんだ」
「悟はそういう役目だから、常に危険な物事から排除される運命なのよ。だから……」
だからだろうか。あの日、僕は死なずに済んだのだ。
翌日――
グアムの青い海でプレジャーボートが衝突事故を起こした。乗船していた間宮夫妻、高柳親子の計五人が巻き込まれ、その尊い命を落とした。
幸運にもホテルの託児所に預けられていた間宮夫婦の息子、圭一朗だけが事故を免れ一人無事だった。
数日後、圭一朗は祖父である間宮宗之助に連れられ、秘密裏に帰国した。しかし、そのことを知る者はわずかしかいなかった。
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