111人が本棚に入れています
本棚に追加
《覚醒編》目覚め
(一)
また僕は夢を見た。
あれから何年も経ったから、あの力は偶然だと思っていたのに……僕を呼ぶ懐かしい声。そして、ひまわりみたいに明るい晴れやかな笑顔。
でも、太陽を背に受けているせいで、それが誰かは鮮明に見えなかった。
――もう大丈夫だよ。おじさんが圭一朗君やお祖父さんを守ってあげるから。
そんな言葉を何度も聞かされたら、この広い屋敷の暗闇だって怖くはなかった。
最後に彼に会ったのは、もう何年も前のことだろうか?
顔もすぐには思い出せないくらい、遠い昔のことだった。
「あのぉ。今、お時間ありますか? さっきからここにずっといるから、待ち合わせかなぁって思っていたんですけどぉ……なんだか、誰も来そうにないからぁ」
こうやって見知らぬ人に話しかけられるのは、何年ぶりだろうか?
外の世界を漂い始めてから、一人の孤独を余計に感じるようになった。
自分は何処にも存在していないのではないかと、不安だったけれど……どうやら僕はちゃんとこの世に存在しているようだった。
「あっ、決して変な勧誘とかじゃないですよ。今、カットモデルを探しているだけです。美容院のモデルです。あれ? あなたは外国の人なのかな? わかります? 私の言っていること。び、よ、う、い、ん、ですよ」
「……美容院のカットモデルですか?」
思っていた以上に、一言目が滑らかに口から出た。
「なぁんだ、わかっているじゃないですかぁ。約束していたモデルが来なくて、困っているんですよ。代わりに髪の毛をカットする、練習台になってもらえませんか? 私、美容師の免許を取り立てで、腕に自信はないんですけどぉ。それでも……勿論、タダでお願いしているんです。もし、お時間があるな ら一~二時間ほど都合をつけてもらえませんか?」
「良いですよ。特に予定もないですし、僕でお役に立てるなら」
最初のコメントを投稿しよう!