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「外には出てないわよ。さっきトイレに入っていったから、家の中にいるはずよ」
娘の答えに安堵した優作だったが、孫が発した言葉に恐怖を覚えた。
「おばあちゃまなら二階に上がっていったわよ」
「な、なんだって!」
階段を上り下りするのは危険だからと、日頃から口が酸っぱくなるくらい注意していた。それなのに、恵子はすっかり忘れて二階へと行ったらしい。
慌てて階段を駆け上がり、優作は恵子を探した。すると、恵子は二階にある納戸で座り込んでいた。
「あれほど言っただろう! 二階に上がってはいけないと。もう、何を言っても聞かないなら、いっそのこと、いっそのこと……あぁ、もういい! お前なんかどこへでも行ってしまえ!」
ホッとしたのも、束の間。介護による疲れが溜まっていたのだろうか、優作はついカッとなり妻を怒鳴りつけてしまった。
「……あ、あなた。そ、そんなに怒らないで」
いつもと違う優作の態度に動揺した恵子は、逃れるようにその場を離れていった。そして、慌てて階段を下りようとして、足を踏み外してしまう。
「きゃあぁぁぁぁ!」
「あっ、け、恵子!」
優作が手を指し伸ばしたが既に時遅く、一番下まであっという間に転げ落てしまったのだった。
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