(三)

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「け、恵子さん!」  嫌な予感がし、岩崎家を訪れた圭一朗の目の前に恵子が転げ落ちてきた。 圭一朗が慌てて恵子に駆け寄ると、次の瞬間―― 光のドームが現れて、圭一朗と恵子を包んでいった。  恋人との仲を引き裂かれて、恵子は会ったこともない男と政略結婚した。 渋々夫婦として生活をするも、最初はあまり幸せだと感じなかった。それでも娘たちが生まれ、家族として暮らす日々は楽しい思い出も多くなった。  優作はその名の通り優しくて、穏やかで、仕事熱心な男だった。父親が見込んだ通りにデパート経営も順調に進め、夫として父としても申し分ない役目を果たしてきた。  そして、これは一番重要なことだが、あんなに蔑ろにされても優作は妻である自分を愛していたのだ。  だが、恵子はプライドが高すぎてお仕着せの夫の愛や、自分が今の生活に満足していることを認めたくなかった。  やがて元恋人と再会するも、とっくに彼への未練がないことにも気づいていた。  危ないから二階には行くなと禁止されていたにも関わらず、恵子は階段を上り二階にある納戸でアルバムを見つけていた。恵子の手には結婚式で撮影した記念写真が握りしめられている。  その写真を見ると笑顔を向けているのは優作だけで、恵子は不機嫌そうな表情を浮かべそっぽを向いていた。
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