(三)

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「ひ、ひどい写真よねぇ、結婚式の記念撮影だというのに。 笑っているのは主人だけで、私はそっぽを向いているなんて……こんな傲慢な女なのに、あの人は不満の一つもこぼさず尽くしてくれた」  たとえそれが政略結婚でも、相手を思う気持ちがなければ続かなかっただろう。愛する男の子供ではないからと、恵子は娘に愛を注ぐことも躊躇したという。  次女を生んだ後、元恋人と再会した恵子は、不覚にも元恋人とよりを戻してしまった。浮気をネタに脅されると、全ての処理を夫の優作に頼んだらしい。 「ちぇっ、また金で解決か。それが欲しくてお前に近づいたから、文句は言えないがな」  小林康文なる人物は恵子の父親から多額の手切れ金を受け取ると、喜んで恵子と別れたらしい。それの真実を後に知った恵子は、元恋人には愛がなかったと悟ったという。  その後、母の浮気を知った娘たちは、ますます恵子に反発した。だが、プライドが邪魔をして、謝罪することができなかった。娘になじられても、夫の優作は常に恵子の味方だった。妻の浮気を許し、全てを受け入れてくれたのにも関わらず。
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