(三)

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――数週間後、間宮家。 「岩崎の奥様はお気の毒でしたね、圭一朗様」 「でも、最期は笑顔で息を引き取ったから、僕らが思うよりも幸せだったのかもしれませんよ。葬儀告別もご家族だけで済まされたようですね。とても温かなお式だったと、ご家族の皆さんが満足していたそうですよ」  岩崎恵子の転落は圭一朗らの目撃者がいたことから事故だと証明された。 その後、優作は自宅を次女夫婦に譲り渡し高齢者専用マンションへと引っ越していった。それは妻の介護を経験し、娘たちに迷惑をかけたくないという、父親の優しさからだったのだろう。  優作は圭一朗へと感謝の気持ちを手紙に残していた。  出口の見えない介護生活が終わり、亡くなった恵子には申し訳ないが、ようやく肩の荷が下りて安堵の気持ちでいっぱいです。  もしもこれ以上あの生活が続いていたら、自分が何をしでかすかわからなかった。憎しみが愛情に勝る前に恵子が亡くなったこと、この手で妻を殺めずに済んだことを神に感謝しています――そう正直に胸の内が記されていた。
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