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スワンの涙
(一)
「どうして私なの? どうして私が死ななければならないの? お医者様は必ず治るって約束してくれたじゃない」
聞こえてきたのは幼い少女の悲痛な叫び声だった。
久しぶりに村松万里子が間宮家を訪ねてきた。万里子はリスのように小さくて可愛らしい容姿をしているが、性格はなかなかの頑固者で怖いもの知らずのところがあった。
「お久しぶり、元気そうね」
「万里ちゃんも元気そうだね。どうしたんだい、今日は?」
「実は圭ちゃんに頼みがあって訪ねて来たの」
祖父ちゃんの葬儀以来だから、かれこれ二年以上経つのだろう。僕にとって幼い頃からの唯一の友である万里子だが、頼みごとがあるせいかどこか緊張しているようだ。
「圭ちゃんは間宮グループで、どれくらいの力を持っているの?」
「ま、万里子ちゃん。久しぶりだっていうのに、何を藪から棒に言い出すんだよ」
「だって、どうしても間宮の力が必要なのよ。お願いだから、私たちを助けてちょうだい」
間宮総合病院で勤務している万里子だが、まだ半人前の研修医には発言権も、内部事情を知る権利もないという。患者への対応は理解ある先輩研修医や看護婦の助言がなければできず、学閥の壁による医師たちの仲たがいのせいで現場が困惑しているらしい。
「こういうことってテレビドラマだけの世界だと思っていたけれど、実際に現場でやられると迷惑この上ないのよね」
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