スワンの涙

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 以前の勤務先での度重なるミスから逃れ、間宮総合病院で勤務し始めた医師。未成年の女性患者からセクハラ行為を医師会に申し立てられた医師。遅刻、欠勤、飲酒による度重なる素行の悪さを指摘されている医師。  それらは皆、院長である菅原定彦が以前に勤務していた、聖都大学附属病院から連れてきた医師たちだった。  菅原は聖都大学教授という輝かしい経歴を引っさげて、間宮総合病院長に迎えられた。しかし、実際の評判はあまり芳しいとは言えないようだ。 「いわゆる大先生気取りで患者に対して横柄だし、ろくに診療しないうちに薬を出すなんて苦情も出ているの。その上、聖都大学附属病院でお荷物になった医師たちを連れてきたものだから、現場は困った状態に陥っているのよ」  群馬大学病院で起きた腹腔鏡手術死亡事故と同じような背景で、聖都大学附属病院でもミスが起きていた。その渦中の医師が安易な内部調査をすり抜け、何の反省もなく再び同じ失敗を間宮総合病院で犯したという。 「術後、優秀なスタッフのお陰で患者は一命を取り留めたけれど、これは事故というより事件だと思うの」  医師会に申し立てられたセクハラ医師は、不必要に少女の胸を触ったと告発されたらしい。後日、患者側が診療録の開示を要求されたところ、治療とは全く関係のない行為であったと判明した。  ところが、まだ示談交渉も進んでいない状況にも関わらず、何事もなかったような顔で診察を続けているらしい。 「でも、どうしてそんな危険人物を放っておいたんだ? いくら院長が連れてきたとはいえ、採用の時に人事調査はしなかったのかな?」
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