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平静を装いながらも、内心私は焦っていた。いや、焦りというよりも、もはやパニックに近かった。
いくつもの、厳重すぎるセキュリティをかいくぐるのに時間を使いすぎてしまったか、それとも最上階であるここ、65階に、自らの足のみで到達しなければならなかった、私の体力のなさが原因か──ともかく、残された時間はあと僅か5分だ。
たった5分で、私は最後の、最重要任務を遂行しなくてはならない。ほぼノンストップで階段を駆け上がってきた私の両足はガクガクと震え、肺も心臓も悲鳴をあげている。もし何者かがここへ乱入してきたとして、闘うだけの気力はもう私には残されていない。
乱れた呼吸を整えつつ、私はふと全面ガラス張りになっている壁へと目を向けた。
夜半をすぎてもなお、眼下に広がる摩天楼は、あらゆる色の光を放ち、心細げに浮かぶ三日月を今にも呑み込んでしまいそうだ。あの光は人間のエゴ。欲にまみれた、汚らわしく悲しい光。
ほんの少し、呼吸と気持ちが落ち着いてきたところへ、不意にヘッドセットが不愉快な音を発した。
「……応答せよ! コードネーム・ウェヴォラヴィ、応答せよ!」
「ったく、うるさいわね」
相手に聞こえるのも構わず、私は舌打ちした。
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