最悪な目覚め

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世間はいつだって人に甘くない。 何か良いことがあったからといって、運が自分に向いた、とか、全て上手くいくなんて決して考えちゃいけなくて、もし浮かれて安心しきった無防備な顔で一歩外に出てしまえば、きっと簡単に足元をすくわれる。 笑顔で近づいてくる奴らもみんな何か裏があって、ただ単純に利用したいから飴を与える。 タダだからなんて安易に口に放り込んでカリッとかみ砕いてみれば、広がるのは甘さに隠された無情な現実と最悪の結末の味。 どーせ人なんか信用したところで裏切られるだけだから。 なんと言われようが人間なんて皆一緒で、結局は自分の事が一番可愛い。 俺だってそう。 自分の事が一番大切で、他人なんてどうだっていい。 だからなのか、何度も確かめるように聞かれた。 「私のどこが好き?」 って。 今まで付き合った彼女に必ず言われた、聞き飽きたフレーズ。 その度に俺は思うんだ。 めんどくせぇ… って。 だって都合のいい話だよね。 自分は人の事裏切るくせに、他人にはしっかりした愛情とか信頼を求めるなんてさ。 上目遣いで、甘えたような猫なで声で、他の男にも聞いたであろう言葉を吐く女の顔は、どうしても好きにはなれなかった。 好きは好きなんだ。 別に、わざわざ嫌いな相手の告白を受け入れるようなお人好しな訳じゃないし。 でもその好きって感情が分からない。 何を理由に、何の自信を持って、『好き』なの? 『恋』? 『愛』? なにそれ。 この二つを合わせると『恋愛』だってさ。笑える。 甘ったるくて吐き気がする。 そんな見えない感情に振り回されたり、面倒なことに巻き込まれんのは正直勘弁してほしくって。 だから俺は恋愛ごっこなんてもう絶対しない。 そう思っていた。
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