最悪な目覚め

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その朝俺は重たい石で頭を打たれているかのような重い頭痛と共に目を覚ました。 この感覚は何度か経験がある。 二日酔いだ。 容赦なく脈を打つ頭を鎮めるために額に手を当てると、その隙間から入り込んできた朝の冷たい空気が布団の温もりを奪っていく。 はぁ、と小さく息をつくと、俺は横になっていた体を仰向けにして、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。 その時に感じた匂いが馴染みのないもので、思わず重い瞼を無理やり抉じ開ける。 何度か瞬きを繰り返すと、その違和感は段々と確かなものに変わっていった。 自分の家とは違う雰囲気の天井。 どんなに疲れていようと必ず外して寝るコンタクトもそのまま。 視界の端で白く見える布団も本当は黒のはずで、しかも何故か地肌にそのふかふかとした手触りを感じている。 色彩感覚も馬鹿になるほど昨夜は飲んだんだっけか。 昨夜…。 ん? そこで俺はバッと体を起こした。 温かく身体を包んでいた布団がずり落ち、素肌に冷気が刺さる。 だが、そんなことも気にならないほどに俺は今の状態を把握できずにいた。 昨晩の記憶が全くなかったのだ。 会議が長引いた上に上司の長々とした立ち話に付き合わされ、運悪く発生したトラブルを片付け、そのおかげで遅れてしまっていた自分の仕事をぱっぱと片付け、何とか定時に退社。 それまでは覚えている。 だが、その後の記憶がすっぽり抜けてしまっている。 でも今のこの体調から察するに、俺はあの後どこかで飲んだのは間違いない。 この頭痛と喉の渇きはそれ以外に考えられないし。 ただ、どこで?誰と? とにかく、今俺はどこにいるんだ。 そこでやっと冷静になった俺は、周りを見渡してみた。 黒に近い赤に塗られた壁。 綺麗に整頓された本棚。 大きいテレビ。 壁と近い色で統一感を図っているらしいソファ。 その奥にはガラステーブルがあって、その上にはワインのボトルとグラスがいくつかと、床にはコンビニの袋と麦酒の缶が転がっていた。 その部屋はモデルルームのように小洒落ていて、生活感を感じられないほど物が少なく、少し殺風景にも思えた。 とにかくこの状況から読み取ると、俺はこの部屋で飲んで潰れたらしい。 だが、酒には強く、滅多に潰れたことのない俺が、二日酔いになるほど飲んだにしては少ない量に見える。
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