最悪な目覚め

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ああ、これじゃ逃げたようなものだ。 とエントランスを出ながら思う。 実際そうなんだが、と思い直しながら方向も分からずに歩き出した。 一度ちらっと振り返ってみると、俺の住んでいるマンションより背丈が倍はありそうな建物がそこにはあった。 ひく、と頬を引き攣らせ、それからすぐ踵を返す。 なんちゅー女と寝てんだ、俺。 5分ほど歩いていると、偶然にも駅に辿り着いた。 その間に鞄とコートの中を漁り、何か物が無くなっていないかをチェック。 念のため財布の中の現金とクレジットカード、キャッシュカードも確かめた。 冷静に考えてみれば、俺の家より倍の高さはしそうな家に住んでいる女が物を盗る必要もないか、という考えに行きつき、思わず自嘲的に笑ってしまう。 この『倍の高さはしそう』っていうのはもちろん、物理的にも金銭的にも、両方の意味でだ。 駅に着いてみて分かったが、ここは俺の家の最寄り駅から3駅ほど離れたところらしい。 自分の居場所が分からなかった分、それを知れただけでも心強い。 電車の中でまだ十分に空いているシートに腰を掛けて、目を閉じる。 はたから見れば朝まで飲んで潰れた酔っ払いにでも見えるかもしれない。 だが、この時はそれも気にならなかった。 まあ、会社の人間にでも見られてしまったら面倒だが、この早い時間に遭遇することもないだろう。 それに、もしそうなったとしてもきっと気づかれない。 会社ではビシッとスーツを着こなし、黒髪をきちんと整え、いつも微笑みを張り付けたような顔をしている俺が、 早朝からこんな乱れた格好で電車に乗っているだなんて。
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