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「おはようございまーす」
何事もなかったの様にいつもの微笑みを顔に貼り付けて出社する。
誰ともなくかけた挨拶への返事は、同じく誰からのものかも分からないまま俺の耳に届いた。
「霧矢(キリヤ)さん。おはようございますっ」
「おはよう」
ピンクのカーディガンに白いスカートというド定番の格好をして、巻いた髪の毛先を触りながら挨拶してくる女の横を通り過ぎる。
どこか物足りなさそうな視線を背中に感じながらもデスクに向かう脚は止めない。
「おはようございます!今日は顔色いいですね!」
「ははっ、そうかな?いつもこんなもんだよ。」
笑顔を作りながら、化粧の濃い女の隣をさっきと同じように通り抜ける。
その瞬間に甘ったるい香水の匂いが鼻をつき、まだ少し痛む脳を刺激した。
思わず眉根を寄せそうになるがそれを堪え、代わりに一瞬だけ呼吸を止める。
今日も化粧臭いわ香水臭いわ…
本当うんざりする。
やっとデスクにつき、まずパソコンの電源を入れる。
その間にコートを脱いで椅子に腰をかけると、今日の業務に必要な書類を机の上に広げた。
そのうちパソコンが立ち上がり、メールのチェックを済ませると、仕事モードに自然と切り替えることが出来た。
それからは早い。
さっさと業務をこなしつつその間に後輩に手早く確実に指示を出して、また自分の仕事を進めて上司に報告。
気が付くと休憩の時間になり、俺はキリのいい所で一旦パソコンの前を離れ、昼食を取るべく席を立った。
その動きも逃さないのが肉食系女子。
俺が社食へと向かう足の先に上目遣いの女が立ったかと思いきや、他の女たちも便乗して集まり、俺の進行方向を埋めてきた。
『お昼一緒にどうですか?』
そうだね、でも今日はごめん。また機会があればぜひ。
『霧矢さんは社食派なんですよね』
うん、まぁね
『霧矢さん、好きな食べ物とかあるんですか?』
あー、まぁ。
『アレよく食べてますよね』
んー、
『霧矢さん』
『霧矢さん』
『霧矢さん』
あーーーーーもう!!!!
鬱陶しい!!!!!!
心の中の叫びが漏れないように必死に体内にそれを留めながら、引き攣りそうになる顔を何とか堪えた。
慣れている事とはいえ、流石に苛々する。
表情が崩れないうちに、と、鉄壁の表情を崩さないままテキトーに返事をして、女たちの中を縫って足早に立ち去った。
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