第三夜 長い夜(後編)

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 狭い隠し入口から家の中に侵入して、壁の中をひたすら走る。  青い帽子が揺れながら弾み、ホコリっぽい空気を頬で感じながらジンは全力で駆けた。  部屋の屋根裏に出て、そこから一枚板がズレたままの穴に飛び込む。  暗い押し入れの中に続く穴を抜けると、細く光が差し込む真っ暗な空間に出る。布団のホコリの匂いがする。  隙間からわずかにこぼれる光を浴びながら、押し入れの扉を押し開ける。  先程まで鳴っていたはずのラジオの音が無い。  変わりに聞こえるのは静けさなどではなく、仲間の名前を呼ぶマサルの声だった。 「オードリー!オードリー!オードリー!」  何度も繰り返して叫ぶ声がカスれるどころか、潰れて濁音混じりになっていた。  マサルは震える腕を自らの腕で必死に押さえながら、自分の剣を邪夢に向けていた。  持ち上げられたオードリーを食わせないために、こちらに注意を引き付けたかった。  大きな邪夢が跳躍して、部屋の床部分に移動してくれたのは幸いだった。上に跳ばれていたらそこに辿り着く間もなくオードリーの身体は食われていただろう。  マサルは走り、触手に追われながらも剣で邪夢の身体を突いて回った。
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