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「ライアービジュアル使うのも、こなれてきたしな……よし、ここは……」
魔法を使った方が早い。使おう。瑞輝は腹に決めて、魔法を唱え始める。
「勇猛なる戦士よ、仮初めの休息により、再びその精神と肉体を動かさん……ナームリカバー!」
光属性の魔法なら、ある程度は使いこなせる。効果も十分だろう。
「よぉし……」
魔法を唱え終わった瑞輝は全力で走り出した。普通ならすぐに息が切れるのだが、ナームリカバーを受けた瑞輝は、全く疲れを感じない。しかし、疲れが溜まらない魔法ではない。あくまで感じないだけなので、魔法が切れたらどっと疲れが出てしまうだろう。
「でもまあ……この調子なら大丈夫だよね」
この調子で全力疾走し続ければ、学校までは、そう時間はかからない。むしろいつもよりも早く着いてしまうだろう。
なので、学校の近くまで行ったら、適当な所で体を休めつつ、ライアービジュアルを掛け直せばいい。
教室にもゆっくりと向かえば、その間には体は相当、休まるだろう。
「とにかく、急がなくちゃ!」
「お? あの女、スゲーな」
駿一(しゅんいち)は、とんでもない速度で横を通り過ぎる女の子を見て驚いた。
「相当飛ばしてるぜ、あれは」
駿一は、女の子が自分の横を通り過ぎてから、遠ざかって姿が見えなくなるまでずっと見ていたが、その間、ずっと同じペースで走っていた。
「あのペースで学校まで行きそうだな……何かのトレーニングか?」
陸上部の奴だろうか。しかし、陸上部であのピンク色の髪の色は怒られないのだろうか。
駿一がそんな事を考えていると、すうっと悠(はるか)が現れて、俺に話しかけた。
「うーん……?」
悠は幽霊だ。
酷い霊媒体質である駿一は、常人とは比べものにならない頻度で霊に絡まれてしまう。こんな風に、幼馴染の幽霊に取り憑かれる事だってある。
もっとも、悠の場合、今までの霊の中でも一番長く取り憑いている、特殊な霊だが……。
「ん……悠、どうした?」
「どっかで見たことあるような……」
「そりゃ、同じ学校なんだし、見たことぐらいあるだろ」
「いや、そーゆーんじゃなくて……」
悠は更に考え込んでいる様子だ。いつも碌に考えもせずに、脊椎反射で声に出している悠にしては、珍しく悩んでいる。
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