SUMMER DREAM

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これだけ人がいればぶつかりそうなものだが、統一されたTシャツを着た係員のおかげなのか、辺りに目を配らせなくてもある程度の秩序を保つことがこの場所の暗黙の了解なのか、誰もが紙幣と分厚い本のようなものを抱えながらもぶつかることはなく、目的地を目指して小走りに進む者もいれば、自分の出番はまだかまだかとそわそわと先頭に立つ女性達を熱い視線で見つめる者もいる。 濁流のように渦巻く人の流れの内、長い列の行き着く先を目で追えば、列の最後尾の方に大きなプラカードを持っている人の姿が見られる。 『最後尾』と書かれた文字の下に書かれている文字は列によって異なっているようだが、これもまた暗黙の了解なのか、プラカードを持っている女性の後ろに新しい人が並べば、何も言わずにプラカードを受け取っては掲げている。 この場所で夏のこの時期、3日間にかけて行われる盛大なイベント。これをある人は『聖典』と呼べば、ある人は『戦場』とも『祭り』とも呼ぶことがある。 統一して言えるのは、今日この場にいる者達は、外の暑さもうだるような熱気も、睡眠不足も何もかも抜きにしてまでもこの場所に立ち、この日を待ち望んでいたということだけ。 「ありがとうございます。新作完売でーす!」 1人の女性が大きな声を出して宣言すれば、まだ自分の番になっていない列の途中から悔しさや、もしかしたら絶望が混じった口調が零れ出す。 「春のは後どれ位?」 3列になっていた内、右から2番目に立っていた端正な顔立ちにシンプルなTシャツが映える女性が凛とした声を後ろに向かって放てば、先程紙袋を交換した人物がすぐさま目当てのモノを見つけ出し、簡潔に答える。 「後2箱ずつ」
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