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SUMMER DREAM
「ありがとうございます。2冊で1200円になります」
「ありがとうございます。こちら新作5冊でよろしいでしょうか?」
「200円のおつりになります。こちらおまけになります」
声と声が重なり合い、重なり合った声の隙間をぬうように、札束が言い過ぎではない位乱雑に空中を舞っている。
舞って着地する先はホールケーキを入れられるような少し大ぶりの紙袋。それも乱雑にガムテープで机に貼り付けられていて、立つ女性達の前にそれぞれ同じような形でスタンバイされているが、空気を含んだ紙はあっという間に袋に入りきらない程膨れ上がっている。
「すみません、前失礼します」
ある程度押し込みながら詰め込んでいたが、それもあっという間に許容オーバーになった頃合いを見計らうように、ショートカットに黒いTシャツを着た人物がこっそりと横からガムテープがついている新しい紙袋を女性の机の前に貼り付けると、代わりに紙幣で一杯になった紙袋を回収する。
流れるような連携プレイに感嘆の声をあげるものは誰もいなかったが、これで驚いているような人間ならば、この修羅場を乗り切ることは出来ないだろう。
ここはこの夏で1番人口密度が高く、この瞬間においては1番熱気が集まる場所の一角に過ぎないのだから。
見れば両隣も同じように長机が直線状にきれいに並べられていて、見渡せば同じような机が大きな会場に整然と並べられている。
その机の前にはどこもどこか言い知れない強い意思を持った女性の姿が多く見られる。並んでいる人の波は壁側に行けば行くほど多くなり、ホールの中央に行けば行くほどまばらになっていく。
しかし、人の多い少ないに関わらず、机を挟んで言葉を交わす人達の熱量に大差はなく、1つの何かを挟んで渡す者も、受け取った者も互いにうれしそうに笑みを交わしている。
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