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僕は冷蔵庫の中から新しい牛乳パックを取り出し、食器棚に並んでいるマグカップを1個掴んだ。
その時、玄関のドアの鍵がガチャッと解かれる音が聞こえた。
ドアが開き、近くで24時間営業しているスーパーのビニール袋がガサガサと自己主張しながら姿を現し、白いテニスシューズのようなスニーカーを履いた右足が自力で閉まろうとする扉に待ったをかけようと差し込まれた。
続いて中を覗き込むようにオカンが顔をのぞかせた。
「あー?
アンタなんでこんな時間にここにおるん!
もうじき9時やで!
また寝坊したんか!」
オカンの金切り声が少しの遠慮もなく僕の鼓膜を通り越して脳みその中枢に突き刺さる。僕の靴が玄関に脱ぎっぱなしで置いてあったのに気付いたのだろう。
「ヨーキ、アンタ学校どないしたん!
夏休みは昨日で終わり。
今日から学校やろ?なんで行ってへんの!」
立て続けに金切り声を上げながら家の中へいそいそと上がってきて、キッチンでシールまみれの冷蔵庫と白いテーブルの間に勃っている僕を見ると、刹那怯んだオカンは言葉を飲み込み、
「あらまぁ、
あんたもそんなとこばっかり立派にならんと、
ちゃんと脳みその方も学校で大人にしてもらってきぃ!」
とかろうじて言葉を続けた。
そして大きく開いた口を手のひらで覆いながら
「あはははは!」
と笑い声を吹き出した。
「なんや、帰って来るなり騒々しい!
静かに・・・」
そう言いながらオカンの方へ視線を移すと、オカンの視線はどうみても僕の顔より、もっと下の方に注がれていた。
右手に牛乳パック、左手にマグカップを掴んだままの状態でオカンの視線の先に目を落とす。
「アカン!何見とんねん!どアホ!」
今度は僕がそう叫んで慌ててオカンに背を向けた。
この年頃の男子ならでわ。
朝一元気一杯の股間の亀がローライズのボクサーブリーフに収まりきれずに飛び出していて、それがきれいに剥けて
「おはようさん」
とおちょぼ口を開いていた。
オカンが怯んだのは久しぶりに見る我が子の男としての成長の著しさ故だろう。
「ええから早う着替えて学校行きやぁ!」
と言って踵を返し、夜勤明けのオカンは玄関とリビングとの間の短い廊下の脇にある自分の部屋へと入っていった。
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