小さなトルネード

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〈日付は九月十七日、時刻は午後十一時五十六分をまわったところ。間もなく曜日が変わります……〉 ドジャーブルーのユニフォームに身を包み、捻じ切れんばかりに捻った身体から剛速球を投げ込む背番号十六。 ズバン!! ミットに吸い込まれた白球が乾いた音をスタジアムに響かせる。 〈ストライク! これでツーエンドツー、九回ツーアウトまでノーヒット……もちろんノーラン。去年のマルティネスに続いてのノーヒッターまで、後アウトカウントひとつ……〉 小さく首を横に振るピッチャー。そして、大きくゆっくりと頷いてから竜巻を起こす準備を始める。 ズドン!! 伝家の宝刀フォークのあまりの落差にメジャー屈指の好打者バークスのバットは大きく空を切った。 〈空振り三振スリーアウトー! ノーヒットノーラン達成! 野茂英雄ーーーー!!〉                * 「ねえ父さん、野茂ってそんなに凄かったの?」 「おいおい、 凄かったどころじゃないって。メジャーで二度のノーヒッターだぞ、陽平も同じピッチャーならわかるだろ?」 「ふーん、やっぱそうなんだぁー。何だかピンと来ないや」 今日は地元にあるクラブチーム主催の野球教室に参加する為、小学六年生になる長男が所属するスポ少野球部を送迎中だ。
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