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三十センチ程の箱を追加で預かり、僕は出発した。もちろんトナカイなんて飼ってないから、今夜のソリは仕事で使ってる愛車の軽バンだ。
イブがこんな雪の夜なんて最高にロマンチックだけれど、ハンドルを握らなきゃいけないサンタにとっては、あまり仕事日和とは言えないかも。
「サンタさん、ありがとう!来年も待ってるね~」
「ハハ、もう来年のこと!? 一年いい子にしてたらね! メリークリスマス!」
名簿最後のお宅に配達を終えた僕は、先輩から預かった箱の事を思い出した。
「うーんと、住所はっと……。あれ?手紙……僕宛!?」
何とこのプレゼントには、僕宛の手紙が付いていた。ひと目でわかる、丸っこくて見覚えのある字。僕の妻からだった。
『ジャーン!ケーキ焼いてみましたー!
ビックリした? ねぇビックリしたよねぇ?
サンタさん仲間と今夜の慰労会で食べて下さい。
初めて焼いたので味は保証いたしませんが、保険のプロのあなたなら大丈夫でしょ?
暖かくするんだよ。風邪ひかないでね。チビちゃんにうつったら嫌だから(笑)
ではでは、あなたには勿体無い可愛いすぎる妻より』
「フッ…あいつ……」
僕は携帯を手に取って、急いで先輩に電話した。
「せ、先輩!配達は完了しました!けど、慰労会はパスしてもいいでしょうか?」
「お? オーケーオーケー。想定内だ。素敵な奥さんにヨロシクな。そのケーキが味見できないのは残念だけど」
「やっぱり先輩もグルだったんですね、ありがとうございます。でも、違うんです!」
「うん? 何が違うんだ? 家に直帰するんじゃないのか?」
「はい、どうしてもこのケーキを届けたいお宅があるんです!」
半ば強引に会話を終えて、僕は携帯を切った。そして、次はちゃんと妻に謝らなきゃいけない。
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