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とりあえずチューハイのプルを開けて彼女の動向を見ていたんだけど、そのうち反対の膝も地面に着けだしたから居たたまれなくなり、「わかった。僕も探すよ。ニラレバ?チーカマ?ビーフジャーキ?」と聞いた。
「…。イカ君」
彼女はイカの燻製のイカクンと言ったのだと思うんだけど、僕には「イカ君」に聞こえた。
そして飲みかけのチューハイを少し吹き出していた。
「イカの燻製ならさ、さっき買ったんだ。ローソンだけど」
「おー!それそれ!ありがと」
彼女は僕が進めていないのにあっさりと"落としたイカ君"を探すのをやめてベンチに座り直した。
僕もそれに合わせて隣に座り、ベンチに置いていたローソンのビニール袋から"イカ君"を取り出した。
「んでさぁ、だれれす?」と彼女が聞いてきた。
僕は思わず微笑みながら「通らすがりの者ですよ」と答えていた。
「あー、毛利すがりさん」
「いや、と、お、り、すがり」
「きゃっはっはっ!チューハイ余ってますか。ください」
彼女の横には背もたれに掛かったバッグと、その下にコンビニの袋があった。その袋から缶チューハイが見えていたんだけど…僕は、自分の袋から缶を取り出して彼女に渡した。
「あー、これ好きなやつ!あまみゆうきが叫ぶやつの」
「まぁそれとは味が違うんだけどね」
ぐびぐび。
そんな感じで彼女はチューハイを飲んでからイカ君の袋に手を伸ばした。そして「開かない」と僕の方に突き出してきた。
僕たちはイカ君とチューハイとライトアップされたテレビ塔と去り際の夏を感じていた。
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