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珍しいこともあるもので、アマモリがふはっと笑った。無愛想な男の笑顔は特別感がある。それだけで友好を示された気分だ。
というか笑うところなのか?
「俺さ、板チョコの噛み応えが好きみたいだ。こんな話することないからな、今さら気づいた」
どこからくるのか不明なむず痒さに喉元が熱を帯びていくのがわかった。口の中のチョコはすっかり柔らかくなり嚥下されるのを待っている。
「どした?」
どうしたのだろう?
飲み込んだチョコは甘く、無様に咳き込んでしまった。
「大丈夫かよ」
「……風邪だ。ウン、今朝から熱っぽい気はしてたんだ」
「げ、試験近いんだからうつすなよ」
眉をしかめて身体をひかれるのが妙に楽しく感じた。離された肩を押し付けてそのままぎゅうぎゅうと体重をかける。
「死なばもろともっ」
緩やかなカーブを曲がれば大学はすぐそこだ。
チョコは溶けて胃におさまったはずなのに、香りはなおも鼻の奥にわだかまっていた。
…
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