35人が本棚に入れています
本棚に追加
ひとひらの雪が俺の手袋にとまった。
ほかに見るものもないので視線を向けると、それは雪というよりも一粒の結晶だった。朝の光をうけてきらめく六角形は、息をのむ間に溶けて丸い水滴に変わる。
一瞬の出来事になにが起こったのかよくわからなかった。思わず、同じくバスを待っているアマモリの背中を叩いていた。
「ん?」
「いま…あっ!ほら、やっぱり見間違いじゃない」
今度はコートの袖についた雪もやはり結晶だ。しかもひとつではなく、いくつもの歪な六角形が寄り合わさっている。
「結晶!コレ!あァ水になった」
「なんだよ?わかるように話せ」
「雪が結晶なんだ!」
「お前それ…小学生でも知ってるから」
馬鹿にされたくらいでは高揚した気分はさがらない。
アマモリのニットキャップに降り落ちた雪だって、きっと結晶だ。
俺は背伸びをして大男の頭上に手を伸ばした。見てないくせに知識だけで偉そうなことを言われるのは癪だ。
最初のコメントを投稿しよう!