とけるもの

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アマモリとは最寄りのバス停が一緒、という間柄で、同じ大学でもあるが「友達」かと聞かれると微妙なところだ。 俺は進学で地元を離れ一人暮らしをしている。アマモリも一人暮らしだろうか?それとも実家? こうして同じ時刻のバスに乗ると話すけれど、出身がどこだとか個人的な内容は聞きそびれていた。 近所に住んでいて同じ大学なら、もう少し仲良くしても良さそうなものだがそうならない。大学でのアマモリはいつも一人で行動しているし、たぶん、つるむのが嫌いなタイプなのだろう。 仮に本人にその気がなくても(本当に仲良くなる気がないのかもしれないが)、大柄で表情が硬いと不機嫌そうに見えて普段は話しかけにくいのだ。 二人掛けの座席にアマモリが座るので俺は当然のようにとなりへ座った。 だってバス停で話しておいて別々の席ってのも気まずい。 隣の男は座るなりがさごそと荷物をあさり赤い包装紙の板チョコを取り出した。豪快に包装紙を破りアルミ箔をはがすと、こちらにまで甘い匂いが届く。 躊躇なく板チョコにかぶりつく姿を、はじめて目撃したときと変わらない衝撃で眺めた。 思えば数ヶ月前、この姿を見て話しかけたのだ。「それ、チョコ?」という俄かには信じられない確認をすると、「え?ああ、うん。朝食」という返答だった。 何度見ても胸やけがする。理解できる日は来ないだろう。
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