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帰り道は、トキと二人きりだった。
〝ちょっと本屋へ寄っていくから、先に帰っとけよ〟
パパに言われ、駅からアパートへと続くバス通りをゆっくり歩く。
「DVなんてウソだよ、絶対! ママが演じたんだ。 トキのお父さんの気をひきたくて」
道端の縁石に飛び乗ったり降りたり。
子供みたいなことをしながら歩く、幼なじみにむかって言ってた。
「そういう言い方はやめろよ。 お前のとこのおじさんが、でたらめ言ってる可能性だってあるだろ?」
ひょいっとジャンプしながら、私の前にトキが降り立つ。
「ちょっとパパのことを悪く言わないで! トキはいつもママの肩もってばっかでムカつく!」
「何でだよ? そっちだってこの前、二人から話聞いて、事情わかって納得してたくせに」
不満そうにトキが唇を尖らせた。
「だからって代わりにパパを恨んだりしない! だいたい、あんなに優しいパパがママを殴ったりするはずないでしょ?」
私の目を見て、トキがあきらめたように息をつく。
「まぁ、そう思うなら、それでいいじゃん。 何でオレらがお前の両親のことでケンカしなきゃなんないわけ?」
「…………」
確かに、そうだ。
私たちが言い合いしたからって、何も変わらない。 変わるはずない。
家族が元に戻ることも、時間が巻き戻されることも、決して、ない。
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