―相楽 美緒―

14/15
前へ
/248ページ
次へ
「あなたの魅力のせいで、脳が溶けてるんですよね」 両手首を両耳の横の壁に押さえつけられ、身動きがとれないままの私に、そんな台詞を吐きながらトキが顔を寄せてくる。 思わず頬がひきつり、苦笑してた。 何言ってるのか、この男。 嘘ばかりついて、意味もわかんなくて、バカでろくでもないくせに。 ……なのに、どうしてよ? 憎めないのは。 もしかして、トキがたくさんの人の想いに支えられて生きてるから? 周囲の人たちの気持ちの積み重ねのうえに、今の私たちがあるから? 「ねぇ。じゃあ……」 あごを上げ、トキの瞳を真っ直ぐに見つめる。 「その身を滅ぼすくらい私に溺れて。 全てを捧げて私のためだけに生きて。 身代わりになって、死ぬくらいの覚悟見せて。 ……そしたら昇格させてあげてもいいよ、彼氏に」 できるだけ偉そうに言ったけど、私を押さえ込むトキの腕の力は抜けなかった。 「何それ、怖いな。 オレを縛りつけて、食い殺すつもり?」 トキがにんまり笑うから、私も同じ顔で笑い返してやる。 「わかってないね? トキ君! それが女という生き物なんだよ」 トキの好みなんてどうでもいい。 今さら素直な可愛い女になんて、なれもしない。 ついでに言えば、ママみたいな大恋愛でもなく。 未だにこれが愛なのかもわからない。 だけど最近わかったことがある。 たった一つ、これだけは間違いない。 トキが大切。 何よりも、誰よりも、大事。 なくしたらきっと、生きていけなくなるくらいに。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!

412人が本棚に入れています
本棚に追加