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「あなたの魅力のせいで、脳が溶けてるんですよね」
両手首を両耳の横の壁に押さえつけられ、身動きがとれないままの私に、そんな台詞を吐きながらトキが顔を寄せてくる。
思わず頬がひきつり、苦笑してた。
何言ってるのか、この男。
嘘ばかりついて、意味もわかんなくて、バカでろくでもないくせに。
……なのに、どうしてよ? 憎めないのは。
もしかして、トキがたくさんの人の想いに支えられて生きてるから?
周囲の人たちの気持ちの積み重ねのうえに、今の私たちがあるから?
「ねぇ。じゃあ……」
あごを上げ、トキの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「その身を滅ぼすくらい私に溺れて。 全てを捧げて私のためだけに生きて。 身代わりになって、死ぬくらいの覚悟見せて。 ……そしたら昇格させてあげてもいいよ、彼氏に」
できるだけ偉そうに言ったけど、私を押さえ込むトキの腕の力は抜けなかった。
「何それ、怖いな。 オレを縛りつけて、食い殺すつもり?」
トキがにんまり笑うから、私も同じ顔で笑い返してやる。
「わかってないね? トキ君! それが女という生き物なんだよ」
トキの好みなんてどうでもいい。
今さら素直な可愛い女になんて、なれもしない。
ついでに言えば、ママみたいな大恋愛でもなく。
未だにこれが愛なのかもわからない。
だけど最近わかったことがある。
たった一つ、これだけは間違いない。
トキが大切。 何よりも、誰よりも、大事。
なくしたらきっと、生きていけなくなるくらいに。
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